アンヘル・コレーラ独占インタビュー第3弾
先週、コレーラ・バレエの旗揚前公演(Pre-Premier)を観に、スペインのラ・グランハまで行って参りました。公演当日は両日とも雨。一時は公演中止も危ぶまれた程でした。それでも、終わってみれば大成功。今回のインタビューは、公演の二日後にあたる7月14日に行ったものです。7月14日は、皮肉にも、本来、アンヘルが日本に向けて出発するはずだった日。旗揚前公演の様子、並びに、ABTの来日公演を降板するに至った心境について語ってもらいました。
いつも人前では笑顔を絶やさないアンヘル。その裏には、人には見せない葛藤があるようです。今回はそのようなアンヘルの内面にも迫ってみました!
*****************
先ず初めに、ラ・グランハでの旗揚公演が大盛況に終わり、おめでとうございます。
二ヶ月間に渡るABTでの公演を終え、水曜日にニューヨークから戻られたばかりですね。その日の午後は、早速、写真撮影に入られていましたが、久しぶりに戻られ、ダンサーたち一人一人に暖かく迎えられていた姿が印象的でした。その時のお気持ちについてお話しいただけますか?
何だかとてもホッとしました。離れていた時間が余りに長く、その間、姉(コレーラ・バレエの芸術助監督兼プリンシパル・ダンサーを務めるカルメン・コレーラ)から色々な情報をもらっていました。カンパニーの状態が良かったのも、あれだけ念入りに練習が出来ていたのも、姉のおかげです。姉は本当によくやってくれたと思います。僕は最後に手解きをしながら自分のエネルギーを入れましたが、殆どが姉の功績です。
写真撮影の後、レセプションへと向かわれましたね。これは、カスティーリャ・イ・リオンの自治政府との契約締結を祝しての記念パーティーだったと聞いていますが、いかがでしたか?
ダンサーとしては、この手の行事は苦手だったのですが、最近大分慣れて来ました。レセプション自体は盛況で、新聞その他マスコミにも大きく取り上げられました。(実際の公演の)批評も好評でしたし、これ以上、望むものはありません。
二日間とも素晴らしい結果に終わりました。初の全幕となる『ラ・バヤデール』への期待は、更に高くなると思います。
公演当日を振り返っていただきたいのですが、初日の夕方は、本番に備え,舞台の上でレッスンが行われましたね。途中で雨雲が顕著になり、最後には大粒の雨が舞台を殴りつけるかのように降って来ました。その光景を目の当たりにした時の心境はいかがでしたか?


(開演5時間前)
−雨雲が顕著になる−
(開演4時間前)
−舞台を殴りつける雨−
「またか!」と思いました。実は、昨年も全く同じ目にあったのです。今年と違い、昨年は最後まで雨は止まず、公演は中止になりましたが。(昨年の夏、アンヘルは数人のダンサーを従え、スペインの各地で公演を行っていた。その一貫として、ラ・グランハでの公演が予定されていたが、残念ながら、当日雨に見舞われ、公演は中止となった。)
雨が降って来た時には、本当にがっくり来ました。この日のために、一生懸命準備をして来たのですから。中には、泣いているダンサーもいました。せっかく頑張ったのに、これで舞台に立つチャンスが消えたと思ったのでしょう。でも、こんな時こそ、カンパニーの団結力を感じます。公演中止の想いが全員の頭を霞め、皆、落胆していました。
と言う事は、あの時点では公演中止の線が濃厚だったと言う事ですか?
全ては舞台や装置係の人たち次第だと思いました。照明や舞台装置は金属部が多く、先ずはその影響で感電しないよう、安全確認をするのが先決でしたから。
そうこうしているうちに雨が止み、関係者総出で舞台の乾燥作業に入りましたね。キース・ロバーツ(『イン・ザ・アッパー・ルーム』の振付助手)やウォルフギャング・ストルウィッツァー(バレエ・マスター)、更にはご自身までもがモップを手に取り、舞台を拭き始めました。



ええ。皆とても協力的でした。団員の反応を見ていれば、このカンパニーがいかにポジティブなのかが伝わって来ます。他のカンパニーだったら、ダンサー自らがモップを手にして舞台を拭きに出るなんていう事は有り得ないと思いますです。
モップを手にした人たちの中には、プリンシパル・ダンサーのイーアン・マッケイの姿や、コール・ドの女性の姿もありましたね。
夜踊らなければならないと解っていても、或は、ここで体力を消耗してしまえば体が疲れてしまうだろうと解っていても、彼らはモップを手に取り、舞台の水を拭き取っていました。
その間、コレーラさんは一度も笑顔を絶やしませんでした。それがコレーラさんの自然な姿なのでしょうか?このような状況下の中、外見上は笑顔を保っていても、本当は不安もあったのではないですか。
僕の笑顔は、様々な問題を直視しないための防衛戦でもあります。心の中の葛藤を外に出すのが苦手なんです。でも、時にはそれが仇となります。それが僕の性分なのです。つい、皆のために良い顔をしてしまう。でも、時にはそうせず、全てが順風漫歩でない事を認めなければならないのでしょうね。
この場合、僕に出来る事はもう何もありませんでした。もし公演中止に追い込まれたとしても、それはもう仕方のない事でした。
雨が止み、舞台が乾き始めたところで、再び雨が降って来ましたね。
はい。せっかく舞台を掃除したのに、また土砂降りの雨が降って来ました。
今度こそ、誰もが公演中止だと思ったのではないですか?

皆、本当に良くやってくれたと思います。開演後もまだ乾き切っていないところがあったり、上に設置してあった照明器具から水滴が落ちて来たりという状態でした。
最終的には、初日の公演は50分遅れの開始となりましたね。当初予定されていた開演時間は22:30。実際に始まったのは23:20でした。そして、夜が更けるにつれ、どんどんと冷え込みが厳しくなりました。その凍てつく寒さの中、上半身裸で野外ステージに立って踊られた感想はいかがでしたか?(アンヘルがこの日踊った『クリア』の衣装は、男性陣は皆上半身裸。)
ちょっとした悪夢でした。初日も寒かったですが、二日目はもっと酷かったです。初日は開演直前に雨が降り、二日目は舞台に氷が張って困りました。
二日目は、あられ混じりの雨だでしたね。降り出しは前日より早く、午後には雨が上がっていましたが、予定を変更して、レッスンを舞台からスタジオへと移されましたね。
そうでした。
不思議なのは、雨が降ったのがあの二日間だけだったという事です。その前も、その後も、晴天続きです。まるで最後まで苦労させられているかのようでした。
色々と不安材料が多かったと言う事でしょうか。
この七年間、本当に色々な苦労がありました。やっとその成果を舞台で見られた事は、僕にとって感動の瞬間でした。残念ながら、その余韻に浸る暇はありませんでしたけどね。色々とする事も多く、アテンドしなければならない人も多く、芸術監督の任務を果たすべき時でもありました。
でも、コレーラさんは、芸術監督であると同時に、カンパニーの看板ダンサーでもありますよね。と言う事は、同時に二つの任務を果たさなければならないのですよね。
ええ。二足のわらじを履いているのですから、その分、責任も増えますし、やる事も増えます。何かと苦労する事が多いです。ダンサーたちには上手く踊って欲しいと願いつつも、それを舞台の上から監督しなければならず、疲労困憊している身で自分も靴を履いて練習をするのは本当に体力を消耗します。
この数日間は、ニューヨークから戻られたばかりで、時差ボケも抜けず、特に大変だったのではないですか。
そうですね。今年のメト・シーズンは僕にとってとてもハードでした。僕は、もの凄くアドレナリンを分泌するタイプです。それによって、快調に踊れるというプラス面もありますが、逆にもの凄くナーバスになってしまうという側面もあります。それがアーティストの二面性なのだと思います。つまり、ポジジティブでクリエイティブな側面と、自分ではどうにもならず、上手く機能出来ないという側面です。
今回は、日本行きも断念されたと聞いていますが、その件については、お話しいただけますか。
ええ。原因は、様々な問題の蓄積です。長い間、足の脛を煩っていますし、背中には疲労骨折もあります。更には足の指も骨折してしまいました。背中の疲労骨折は古傷なのですが、今シーズンずっと痛み続けていました。
メト・シーズン中、過酷なスケデュールが続き、舞台に立っても100%出し切れていない自分に気が付きました。そのため、今回は思い切って休みを取り、充電する必要があると判断しました。舞台に立てばアドレナリンが分泌され、無理して頑張る事は出来たかもしれません。でも、もはや、舞台に立つ事が楽しみではなく、苦しみに変わっていました。また、100%力を出し切れないと解っていながら舞台に立つのは観客にもフェアでありません。
メトでは、『エチュード』を何回か降板されましたね。
はい。疲労のため、二回降板しました。連続出演が重なり、精神的にも休みが必要でした。月曜日に『白鳥』を踊り、火、水と『エチュード』、金曜日にまた『エチュード』と言う日程は、二十歳の頃だったらこなせたかもしれませんが、三十二歳の今となっては無理です。
このような事情で、今回、急遽来日を取りやめにしなければならなかった事は、本当に申し訳なく思っています。日本に行くのはとても楽しみにしていましたから。でも、このままの状態で日本に行くのは僕にとっても観客の皆さんにとってもフェアでないと思いました。きちんと踊れないと解っていながら舞台に立つのは、観客にも失礼です。
もちろん、反響は覚悟の上です。何度も、「踊らないと、皆をがっかりさせるのではないの?」と聞かれました。でも、踊ってみたものの、自分の普段の力が出し切れなければ、皆もっとがっかりすると思います。
今はどうしても体を休める必要があり、それがたまたま日本公演の時期と重なってしまったのが残念でなりません。僕は日本も日本の文化も大好きですし、今回の件に関しては、皆さんのご理解を乞うしかありません。
日本の観客の皆さんがいかにダンスを敬愛し、いかに僕の踊りを楽しんで下さっているのかは理解しているつもりです。降板という事態で一番がっかりさせたくない人たちでもあります。でも、今回の体調不良は既にメト・シーズン中に始まっていた事で、精神的にも肉体的にも状態が良くなかったため、メトでの降板も余儀なくされたのでした。この状態を人に説明するのは難しく、理解してもらうのも難しいようです。特に、僕が普段とてもハッピーな人間なだけに、伝わり難いのかもしれません。僕自身、自分が踊るのを止めなければならない状態にあると言う事が中々理解出来ませんでした。でも、あるところまで来ると、体が「もうここまで」というサインを出し始め、今はその状態なのです。
そうですか。
ABTの来日公演はいつも三年に一度の巡り合わせですが、その前に来日する可能性はありますか。例えば、どこかで客演したり、或はコレーラ・バレエを引き連れて来日する可能性についてはいかがですか。
是非、カンパニーを連れて来日したいです。ここ(スペイン)で起きている事を実際に日本の皆さんに体験していただきたいとも思います。これだけ素晴らしいエネルギーを持ったカンパニーは珍しいですし、このカンパニーはダンサーとしての僕の分身でもあります。僕を観てもらうだけでなく、僕のカンパニーも観てもらう。これこそ、僕の踊りの集大成です。
今回のような事態(降板)が起きる事は、どんな場合でも残念な事です。それがたまたま来日公演の時期と重なってしまい、尚更です。でも、僕は日本の観客が大好きですし、今後、もし呼ばれる事があれば、是非行きたいと思っています。お世辞ではなく、本当に僕は日本が大好きです!
では、全てが上手く行くよう、祈っていますね。
ところで、コレーラ・バレエの話に戻しますと、次は『ラ・バヤデール』ですね。ダンサーたちは現在二週間のお休みに入っていると聞きましたが。
はい。ダンサーたちは休暇中です。四月からノンストップで働き続けて来ましたから。特に振付師たち(スタントン・ウェルチ、キース・ロバーツ、デビッド・リチャードソン)が来てからと言うもの、週休二日を週休一日に削って頑張って来ました。振付けを上手く再現するためには、決まった時間数が必要だという振付家の方々からの要請もあり、このタイミングでしかダンサーたちに休みを与える事が出来ませんでした。『ラ・バヤデール』が終われば、2009年末までツアーが続きます。
ツアーの開始はいつですか?また、何処を回られるのですか?
カスティーリャ・イ・リオンだけでも、テネリフェ、カナリア諸島、グラナダ祭、バルセロナ(リセウ劇場とティボリ劇場)等、21都市を巡ります。後はブラジルにも行きたいと思っていますし、ワシントンD.C.にも行くかもしれません。他にも可能性のある都市は幾つかあります。また、ジャパン・アーツさんを始め、何処からか日本公演のお誘いがあれば、日本にも行きたいです!将来に向けて、色々な計画を立てているところですし、優秀なカンパニー・マネジャーも付いています!
本日は、お疲れの所、どうもありがとうございました。また9月にお会い出来るのを楽しみにしています。
投稿日:2008年7月16日
いつも人前では笑顔を絶やさないアンヘル。その裏には、人には見せない葛藤があるようです。今回はそのようなアンヘルの内面にも迫ってみました!
先ず初めに、ラ・グランハでの旗揚公演が大盛況に終わり、おめでとうございます。
二ヶ月間に渡るABTでの公演を終え、水曜日にニューヨークから戻られたばかりですね。その日の午後は、早速、写真撮影に入られていましたが、久しぶりに戻られ、ダンサーたち一人一人に暖かく迎えられていた姿が印象的でした。その時のお気持ちについてお話しいただけますか?
何だかとてもホッとしました。離れていた時間が余りに長く、その間、姉(コレーラ・バレエの芸術助監督兼プリンシパル・ダンサーを務めるカルメン・コレーラ)から色々な情報をもらっていました。カンパニーの状態が良かったのも、あれだけ念入りに練習が出来ていたのも、姉のおかげです。姉は本当によくやってくれたと思います。僕は最後に手解きをしながら自分のエネルギーを入れましたが、殆どが姉の功績です。
写真撮影の後、レセプションへと向かわれましたね。これは、カスティーリャ・イ・リオンの自治政府との契約締結を祝しての記念パーティーだったと聞いていますが、いかがでしたか?ダンサーとしては、この手の行事は苦手だったのですが、最近大分慣れて来ました。レセプション自体は盛況で、新聞その他マスコミにも大きく取り上げられました。(実際の公演の)批評も好評でしたし、これ以上、望むものはありません。
二日間とも素晴らしい結果に終わりました。初の全幕となる『ラ・バヤデール』への期待は、更に高くなると思います。
公演当日を振り返っていただきたいのですが、初日の夕方は、本番に備え,舞台の上でレッスンが行われましたね。途中で雨雲が顕著になり、最後には大粒の雨が舞台を殴りつけるかのように降って来ました。その光景を目の当たりにした時の心境はいかがでしたか?


(開演5時間前)
−雨雲が顕著になる−
(開演4時間前)
−舞台を殴りつける雨−
「またか!」と思いました。実は、昨年も全く同じ目にあったのです。今年と違い、昨年は最後まで雨は止まず、公演は中止になりましたが。(昨年の夏、アンヘルは数人のダンサーを従え、スペインの各地で公演を行っていた。その一貫として、ラ・グランハでの公演が予定されていたが、残念ながら、当日雨に見舞われ、公演は中止となった。)
雨が降って来た時には、本当にがっくり来ました。この日のために、一生懸命準備をして来たのですから。中には、泣いているダンサーもいました。せっかく頑張ったのに、これで舞台に立つチャンスが消えたと思ったのでしょう。でも、こんな時こそ、カンパニーの団結力を感じます。公演中止の想いが全員の頭を霞め、皆、落胆していました。
と言う事は、あの時点では公演中止の線が濃厚だったと言う事ですか?
全ては舞台や装置係の人たち次第だと思いました。照明や舞台装置は金属部が多く、先ずはその影響で感電しないよう、安全確認をするのが先決でしたから。
そうこうしているうちに雨が止み、関係者総出で舞台の乾燥作業に入りましたね。キース・ロバーツ(『イン・ザ・アッパー・ルーム』の振付助手)やウォルフギャング・ストルウィッツァー(バレエ・マスター)、更にはご自身までもがモップを手に取り、舞台を拭き始めました。



ええ。皆とても協力的でした。団員の反応を見ていれば、このカンパニーがいかにポジティブなのかが伝わって来ます。他のカンパニーだったら、ダンサー自らがモップを手にして舞台を拭きに出るなんていう事は有り得ないと思いますです。
モップを手にした人たちの中には、プリンシパル・ダンサーのイーアン・マッケイの姿や、コール・ドの女性の姿もありましたね。
夜踊らなければならないと解っていても、或は、ここで体力を消耗してしまえば体が疲れてしまうだろうと解っていても、彼らはモップを手に取り、舞台の水を拭き取っていました。
その間、コレーラさんは一度も笑顔を絶やしませんでした。それがコレーラさんの自然な姿なのでしょうか?このような状況下の中、外見上は笑顔を保っていても、本当は不安もあったのではないですか。
僕の笑顔は、様々な問題を直視しないための防衛戦でもあります。心の中の葛藤を外に出すのが苦手なんです。でも、時にはそれが仇となります。それが僕の性分なのです。つい、皆のために良い顔をしてしまう。でも、時にはそうせず、全てが順風漫歩でない事を認めなければならないのでしょうね。
この場合、僕に出来る事はもう何もありませんでした。もし公演中止に追い込まれたとしても、それはもう仕方のない事でした。
雨が止み、舞台が乾き始めたところで、再び雨が降って来ましたね。
はい。せっかく舞台を掃除したのに、また土砂降りの雨が降って来ました。
今度こそ、誰もが公演中止だと思ったのではないですか?

皆、本当に良くやってくれたと思います。開演後もまだ乾き切っていないところがあったり、上に設置してあった照明器具から水滴が落ちて来たりという状態でした。
最終的には、初日の公演は50分遅れの開始となりましたね。当初予定されていた開演時間は22:30。実際に始まったのは23:20でした。そして、夜が更けるにつれ、どんどんと冷え込みが厳しくなりました。その凍てつく寒さの中、上半身裸で野外ステージに立って踊られた感想はいかがでしたか?(アンヘルがこの日踊った『クリア』の衣装は、男性陣は皆上半身裸。)
ちょっとした悪夢でした。初日も寒かったですが、二日目はもっと酷かったです。初日は開演直前に雨が降り、二日目は舞台に氷が張って困りました。
二日目は、あられ混じりの雨だでしたね。降り出しは前日より早く、午後には雨が上がっていましたが、予定を変更して、レッスンを舞台からスタジオへと移されましたね。
そうでした。
不思議なのは、雨が降ったのがあの二日間だけだったという事です。その前も、その後も、晴天続きです。まるで最後まで苦労させられているかのようでした。
色々と不安材料が多かったと言う事でしょうか。
この七年間、本当に色々な苦労がありました。やっとその成果を舞台で見られた事は、僕にとって感動の瞬間でした。残念ながら、その余韻に浸る暇はありませんでしたけどね。色々とする事も多く、アテンドしなければならない人も多く、芸術監督の任務を果たすべき時でもありました。
でも、コレーラさんは、芸術監督であると同時に、カンパニーの看板ダンサーでもありますよね。と言う事は、同時に二つの任務を果たさなければならないのですよね。
ええ。二足のわらじを履いているのですから、その分、責任も増えますし、やる事も増えます。何かと苦労する事が多いです。ダンサーたちには上手く踊って欲しいと願いつつも、それを舞台の上から監督しなければならず、疲労困憊している身で自分も靴を履いて練習をするのは本当に体力を消耗します。
この数日間は、ニューヨークから戻られたばかりで、時差ボケも抜けず、特に大変だったのではないですか。
そうですね。今年のメト・シーズンは僕にとってとてもハードでした。僕は、もの凄くアドレナリンを分泌するタイプです。それによって、快調に踊れるというプラス面もありますが、逆にもの凄くナーバスになってしまうという側面もあります。それがアーティストの二面性なのだと思います。つまり、ポジジティブでクリエイティブな側面と、自分ではどうにもならず、上手く機能出来ないという側面です。
今回は、日本行きも断念されたと聞いていますが、その件については、お話しいただけますか。
ええ。原因は、様々な問題の蓄積です。長い間、足の脛を煩っていますし、背中には疲労骨折もあります。更には足の指も骨折してしまいました。背中の疲労骨折は古傷なのですが、今シーズンずっと痛み続けていました。
メト・シーズン中、過酷なスケデュールが続き、舞台に立っても100%出し切れていない自分に気が付きました。そのため、今回は思い切って休みを取り、充電する必要があると判断しました。舞台に立てばアドレナリンが分泌され、無理して頑張る事は出来たかもしれません。でも、もはや、舞台に立つ事が楽しみではなく、苦しみに変わっていました。また、100%力を出し切れないと解っていながら舞台に立つのは観客にもフェアでありません。
メトでは、『エチュード』を何回か降板されましたね。
はい。疲労のため、二回降板しました。連続出演が重なり、精神的にも休みが必要でした。月曜日に『白鳥』を踊り、火、水と『エチュード』、金曜日にまた『エチュード』と言う日程は、二十歳の頃だったらこなせたかもしれませんが、三十二歳の今となっては無理です。
このような事情で、今回、急遽来日を取りやめにしなければならなかった事は、本当に申し訳なく思っています。日本に行くのはとても楽しみにしていましたから。でも、このままの状態で日本に行くのは僕にとっても観客の皆さんにとってもフェアでないと思いました。きちんと踊れないと解っていながら舞台に立つのは、観客にも失礼です。
もちろん、反響は覚悟の上です。何度も、「踊らないと、皆をがっかりさせるのではないの?」と聞かれました。でも、踊ってみたものの、自分の普段の力が出し切れなければ、皆もっとがっかりすると思います。
今はどうしても体を休める必要があり、それがたまたま日本公演の時期と重なってしまったのが残念でなりません。僕は日本も日本の文化も大好きですし、今回の件に関しては、皆さんのご理解を乞うしかありません。
日本の観客の皆さんがいかにダンスを敬愛し、いかに僕の踊りを楽しんで下さっているのかは理解しているつもりです。降板という事態で一番がっかりさせたくない人たちでもあります。でも、今回の体調不良は既にメト・シーズン中に始まっていた事で、精神的にも肉体的にも状態が良くなかったため、メトでの降板も余儀なくされたのでした。この状態を人に説明するのは難しく、理解してもらうのも難しいようです。特に、僕が普段とてもハッピーな人間なだけに、伝わり難いのかもしれません。僕自身、自分が踊るのを止めなければならない状態にあると言う事が中々理解出来ませんでした。でも、あるところまで来ると、体が「もうここまで」というサインを出し始め、今はその状態なのです。
そうですか。
ABTの来日公演はいつも三年に一度の巡り合わせですが、その前に来日する可能性はありますか。例えば、どこかで客演したり、或はコレーラ・バレエを引き連れて来日する可能性についてはいかがですか。
是非、カンパニーを連れて来日したいです。ここ(スペイン)で起きている事を実際に日本の皆さんに体験していただきたいとも思います。これだけ素晴らしいエネルギーを持ったカンパニーは珍しいですし、このカンパニーはダンサーとしての僕の分身でもあります。僕を観てもらうだけでなく、僕のカンパニーも観てもらう。これこそ、僕の踊りの集大成です。
今回のような事態(降板)が起きる事は、どんな場合でも残念な事です。それがたまたま来日公演の時期と重なってしまい、尚更です。でも、僕は日本の観客が大好きですし、今後、もし呼ばれる事があれば、是非行きたいと思っています。お世辞ではなく、本当に僕は日本が大好きです!
では、全てが上手く行くよう、祈っていますね。
ところで、コレーラ・バレエの話に戻しますと、次は『ラ・バヤデール』ですね。ダンサーたちは現在二週間のお休みに入っていると聞きましたが。
はい。ダンサーたちは休暇中です。四月からノンストップで働き続けて来ましたから。特に振付師たち(スタントン・ウェルチ、キース・ロバーツ、デビッド・リチャードソン)が来てからと言うもの、週休二日を週休一日に削って頑張って来ました。振付けを上手く再現するためには、決まった時間数が必要だという振付家の方々からの要請もあり、このタイミングでしかダンサーたちに休みを与える事が出来ませんでした。『ラ・バヤデール』が終われば、2009年末までツアーが続きます。
ツアーの開始はいつですか?また、何処を回られるのですか?
カスティーリャ・イ・リオンだけでも、テネリフェ、カナリア諸島、グラナダ祭、バルセロナ(リセウ劇場とティボリ劇場)等、21都市を巡ります。後はブラジルにも行きたいと思っていますし、ワシントンD.C.にも行くかもしれません。他にも可能性のある都市は幾つかあります。また、ジャパン・アーツさんを始め、何処からか日本公演のお誘いがあれば、日本にも行きたいです!将来に向けて、色々な計画を立てているところですし、優秀なカンパニー・マネジャーも付いています!
本日は、お疲れの所、どうもありがとうございました。また9月にお会い出来るのを楽しみにしています。
投稿日:2008年7月16日
この記事へのコメント
1. Posted by
プリマローズ
2008年07月17日 21:01
私のブログにこちらの記事をリンクさせていただきました。よろしくお願いします。
2. Posted by いちぞー
2008年07月18日 09:25
☆プリマローズさん
ありがとうございます!
早速お邪魔させていただきました!
ありがとうございます!
早速お邪魔させていただきました!
3. Posted by nao
2008年07月18日 10:00
いちぞーさんの昨日の記事を見て、アンヘルの降板を知りました・・・ので、心の整理をして会場に行くことが出来ました。ありがと☆
アンヘル君を観られなかったのは残念でしたが、あのはりきって踊る姿が観られないのならばしょうがないですね。代わりに久しぶりにカレーニョのドン・キを観られました。ニーナも良かった♪去年来日した時よりも動きが軽くなっていました。残りも楽しむぞ〜!!
アンヘル君を観られなかったのは残念でしたが、あのはりきって踊る姿が観られないのならばしょうがないですね。代わりに久しぶりにカレーニョのドン・キを観られました。ニーナも良かった♪去年来日した時よりも動きが軽くなっていました。残りも楽しむぞ〜!!
4. Posted by KITTY
2008年07月18日 21:18
いちぞーさん〜〜
内容の濃いレポート有難うございました。
読みながら彼らの映像が目に浮かび、涙が溢れてきちゃいました。(止まりません〜〜〜)
本当、長い間の不調がもう限界状態だったんですね。疲労が重なると、怪我の確率も益々高くなっるし(実際に怪我をされてしまったし)、それによって精神的にもパンク状態になるのはよく分かります。彼の今回の休養を取るという決断は正しかったと思います。無理して頑張って公演に出演し続けても、きっと「あれ?何かおかしくない?」ってファンに伝わったと思うし。ファンとしてはやっぱり本人が一番ベストの状態、最高の笑顔で踊ってもらいたいと願いますよね。
今回は十分に充電していただきたいですね。
レポートの最後に、では9月に!とありますがメットのオペラで踊られるってことですよね?
もしそうなら、いちぞーさん、これらますよね?
私もオペラは全く無知ですが、アンヘル様が出るなら見に行きたい!!多分、遠い席からになっちゃうと思いますが(オペラはバレエより高いし)。
またアンヘルのカンパニーがDCにツアーで来年くるかも?なんですね。 そのときは、NYCから応援に行きたい〜〜〜。車で4時間飛ばせば行けるし。。。
色々楽しみが一杯です。
普段見ることの出来ない、お掃除姿のアンヘル様ショット有難うございます。
いつもレポート有難うございます。
Kitty
内容の濃いレポート有難うございました。
読みながら彼らの映像が目に浮かび、涙が溢れてきちゃいました。(止まりません〜〜〜)
本当、長い間の不調がもう限界状態だったんですね。疲労が重なると、怪我の確率も益々高くなっるし(実際に怪我をされてしまったし)、それによって精神的にもパンク状態になるのはよく分かります。彼の今回の休養を取るという決断は正しかったと思います。無理して頑張って公演に出演し続けても、きっと「あれ?何かおかしくない?」ってファンに伝わったと思うし。ファンとしてはやっぱり本人が一番ベストの状態、最高の笑顔で踊ってもらいたいと願いますよね。
今回は十分に充電していただきたいですね。
レポートの最後に、では9月に!とありますがメットのオペラで踊られるってことですよね?
もしそうなら、いちぞーさん、これらますよね?
私もオペラは全く無知ですが、アンヘル様が出るなら見に行きたい!!多分、遠い席からになっちゃうと思いますが(オペラはバレエより高いし)。
またアンヘルのカンパニーがDCにツアーで来年くるかも?なんですね。 そのときは、NYCから応援に行きたい〜〜〜。車で4時間飛ばせば行けるし。。。
色々楽しみが一杯です。
普段見ることの出来ない、お掃除姿のアンヘル様ショット有難うございます。
いつもレポート有難うございます。
Kitty
5. Posted by
いちぞー
2008年07月18日 22:46
☆KITTYさん
「ではまた9月に」というのは、コレーラ・バレエのラ・バヤデールの事です
個人的には、行くかどうかまだ決めていませんが(←と言いつつ、初日のチケットはしっかり買ってある)その場の雰囲気でそう言ってしまいました
でも、ご安心下さい!インタビュー終了後に『ラ・ジョコンダ』の事を聞いたら、間違いなくメトで踊ると言っていました!詳しい日程までは確認出来ませんでしたが、メトのサイトに載っている通りだと思います。(9月26日〜10月9日)。4日に1回くらいの出演日程だから、そんなにハードじゃないはずだとも言っていました。
で、今気が付いたのですが、これってABTのエイブリー・フィッシャー公演とばっちり被っていますよね。そっちには出演しないのかしら?と、この辺の確認が取れていないところが、私の詰めの甘いところです
「ではまた9月に」というのは、コレーラ・バレエのラ・バヤデールの事です

個人的には、行くかどうかまだ決めていませんが(←と言いつつ、初日のチケットはしっかり買ってある)その場の雰囲気でそう言ってしまいました

でも、ご安心下さい!インタビュー終了後に『ラ・ジョコンダ』の事を聞いたら、間違いなくメトで踊ると言っていました!詳しい日程までは確認出来ませんでしたが、メトのサイトに載っている通りだと思います。(9月26日〜10月9日)。4日に1回くらいの出演日程だから、そんなにハードじゃないはずだとも言っていました。
で、今気が付いたのですが、これってABTのエイブリー・フィッシャー公演とばっちり被っていますよね。そっちには出演しないのかしら?と、この辺の確認が取れていないところが、私の詰めの甘いところです

6. Posted by
いちぞー
2008年07月18日 22:51
☆naoさん
会場に着いてからキャスト変更を知るのって、結構ショックですよね。
でも、カレーニョの『ドン・キ』が観れて、良かったですね♪
ニーナも確かに去年よりは動きが良くなっていて、来期でABTも最後かと思うと、寂しいです。
会場に着いてからキャスト変更を知るのって、結構ショックですよね。
でも、カレーニョの『ドン・キ』が観れて、良かったですね♪
ニーナも確かに去年よりは動きが良くなっていて、来期でABTも最後かと思うと、寂しいです。
7. Posted by Fado
2008年07月19日 20:42
アンヘルの笑顔に癒されたい・・・とABTのチッケットをゲットしました。降板と知ってがっかりはしましたが・・・。旗揚げ公演のステージをモップで
掃除をしているのをみたら、わがままはいえません。納得です。疲労骨折ですか。どんなにお疲れか
お気の毒です。お大事になさっていただきたいです。
スペインは大好きな国です。日本の若いダンサーも
アンヘルのカンパニーにドンドン入っていただきたい
です。
昨日のガラ公演もアンヘルの笑顔はなっかたけれどもとても素晴らしいものでした。コールドの若い
ダンサーの笑顔に癒されてきました。誰もがとても
キュートなんです。
25日にまた白鳥にいきます!
はじめて書き込みました。これからも時々お邪魔させていただきます。
アンヘルの一日も早い快復を祈りながら。
掃除をしているのをみたら、わがままはいえません。納得です。疲労骨折ですか。どんなにお疲れか
お気の毒です。お大事になさっていただきたいです。
スペインは大好きな国です。日本の若いダンサーも
アンヘルのカンパニーにドンドン入っていただきたい
です。
昨日のガラ公演もアンヘルの笑顔はなっかたけれどもとても素晴らしいものでした。コールドの若い
ダンサーの笑顔に癒されてきました。誰もがとても
キュートなんです。
25日にまた白鳥にいきます!
はじめて書き込みました。これからも時々お邪魔させていただきます。
アンヘルの一日も早い快復を祈りながら。
8. Posted by
miya
2008年07月20日 01:30
いちぞーさん、こんばんは。
素晴らしいインタビュー記事ありがとうございます。特に心に残ったのは、
「僕の笑顔は、様々な問題を直視しないための防衛戦でもあります。心の中の葛藤を外に出すのが苦手なんです。でも、時にはそれが仇となります。それが僕の性分なのです。」と、
「僕が普段とてもハッピーな人間なだけに、伝わり難いのかもしれません。」
アンヘルの誰をも魅了してしまう光り輝く笑顔、けれども、その心の内を正直に吐露してくれたアンヘルが、ますます好きになってしまいました。
いちぞーさんの腕に感謝、です。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
素晴らしいインタビュー記事ありがとうございます。特に心に残ったのは、
「僕の笑顔は、様々な問題を直視しないための防衛戦でもあります。心の中の葛藤を外に出すのが苦手なんです。でも、時にはそれが仇となります。それが僕の性分なのです。」と、
「僕が普段とてもハッピーな人間なだけに、伝わり難いのかもしれません。」
アンヘルの誰をも魅了してしまう光り輝く笑顔、けれども、その心の内を正直に吐露してくれたアンヘルが、ますます好きになってしまいました。
いちぞーさんの腕に感謝、です。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
9. Posted by
いちぞー
2008年07月20日 02:55
☆Fadoさん
アンヘルの笑顔に癒されて来た人は沢山いるのでしょうね。でも、今はアンヘルが癒される番。じっくり休養して欲しいですね。
ABTのガラ、楽しめて良かったですね♪
ABTは私も大好きなカンパニーです!
もちろん、コレーラ・バレエも
アンヘルがモップを持って掃除している姿は確かにちょっと感動的でした。そのひた向きさに、見ていて
するくらい。
今はアンヘルの快復と共に、コレーラ・バレエの来日を待ちたいと思います!
アンヘルの笑顔に癒されて来た人は沢山いるのでしょうね。でも、今はアンヘルが癒される番。じっくり休養して欲しいですね。
ABTのガラ、楽しめて良かったですね♪
ABTは私も大好きなカンパニーです!
もちろん、コレーラ・バレエも

アンヘルがモップを持って掃除している姿は確かにちょっと感動的でした。そのひた向きさに、見ていて
するくらい。今はアンヘルの快復と共に、コレーラ・バレエの来日を待ちたいと思います!
10. Posted by
いちぞー
2008年07月20日 03:04
☆Miyaさん
アンヘルは、今回の旗揚公演が雨で中止になりそうになっても、笑顔を絶やす事はありませんでした。内心、がっかりしているはずなのに…と思い、何となくその時の気持ちを聞いてみたくなりました。
ストレートに色々と語ってくれたアンヘルに感謝です♪
アンヘルは、今回の旗揚公演が雨で中止になりそうになっても、笑顔を絶やす事はありませんでした。内心、がっかりしているはずなのに…と思い、何となくその時の気持ちを聞いてみたくなりました。
ストレートに色々と語ってくれたアンヘルに感謝です♪
11. Posted by kitty
2008年07月22日 05:46
いちぞーさん
9月のABTのエイブリー・フィッシャー公演をよくよく見ると。。。。2009年と書いてありました。来年した。。。。早とちりでした。御免なさい〜〜〜
余りにうれしく・ビックリしたので今年だとスッカリ思ってました。
『ラ・ジョコンダ』、見に行かなくちゃ!全くストーリ知らないけど。。。行く前に予習必要です。
いちぞーさんも来られますか?
9月のABTのエイブリー・フィッシャー公演をよくよく見ると。。。。2009年と書いてありました。来年した。。。。早とちりでした。御免なさい〜〜〜
余りにうれしく・ビックリしたので今年だとスッカリ思ってました。
『ラ・ジョコンダ』、見に行かなくちゃ!全くストーリ知らないけど。。。行く前に予習必要です。
いちぞーさんも来られますか?
12. Posted by
いちぞー
2008年07月22日 13:32
☆KITTYさん
『ラ・ジョコンダ』、観たいです!!10月7日からはマリインスキーがロスに来るので、既にチケットを購入済み。9月の終わりから10月の第一週頃だったら、行けるかもしれません。でも、 予定は未定。チケットを押さえるのはぎりぎりになってからでもいいかな、と思ってます。(^^;)
『ラ・ジョコンダ』、観たいです!!10月7日からはマリインスキーがロスに来るので、既にチケットを購入済み。9月の終わりから10月の第一週頃だったら、行けるかもしれません。でも、 予定は未定。チケットを押さえるのはぎりぎりになってからでもいいかな、と思ってます。(^^;)















